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本選びに迷ったら、せきしろ×又吉直樹が勧める20冊をどうぞ。二人の熱いコメント20冊分を一挙公開

蕎麦湯が来ない』(せきしろ×又吉直樹)の刊行記念として紀伊國屋書店新宿本店梅田本店で開催した選書フェア。二人がオススメする書籍リストは以前公開した通りですが、このたび二人がなぜその20冊をオススメするか、推薦コメント自体を紹介します。二人がどんな風に本を読み、どんな風に本を楽しんでいるかが伝わってくる、静かに熱いコメントです。コメントを読むだけでも十分面白いし、本選びに迷った際にはぜひこの20冊から選んでみてください。

なお、紀伊國屋書店新宿本店では本館2階にて今も選書フェアを継続中です(新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から時間を変更しての営業となります。お運びの際にはツイッターHP等をご参照ください)。

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ということで、選書リスト・コメント付き10冊ずつ計20冊分を一挙公開。

せきしろ

『小僧の神様・城の崎にて』志賀直哉(新潮文庫)
中学生の時に罰として校庭の掃除をさせられていたら、通りがかった教頭先生が自主的に掃除していると勘違いして「ご褒美に本をあげよう」と言ってくれた本。それからずっと志賀直哉が好きなのだ。

『猫の客』平出隆(河出書房新社)
一行一行が詩的であり、全体もまた詩的である。美しさ。リアル。余韻。私が欲しいものがすべてある。

『阿呆の鳥飼』内田百閒(中公文庫)
『鶏鳴』という作品が収録されていて、私はこの作品が大好きで、いつかこういうのを書いてみたいと思っている。無理だろうなとも思う。

『梶井基次郎(ちくま日本文学28)』(筑摩書房)
私はなにかあったら『過古』という作品を読みたくなって、手元に本がない時はその都度買っていた。そのため家にはこの本が何冊もある。

『日輪・春は馬車に乗って 他八篇』横光利一(岩波文庫)
初めて読んだのは教科書に載っていた『蠅』で、それから読み漁るようになった。不意にバッドエンドで終わるような話がいくつかあって、それがたまらない。

『水中都市・デンドロカカリヤ』安部公房(新潮文庫)
初期短編集。これに収録されている『闖入者』は、つげ義春の『李さん一家』、藤子不二雄A『魔太郎が来る』の「不気味な侵略者」と共に映画『パラサイト』へと通ずる。

『尾形亀之助詩集』(現代詩文庫)
私は将来の夢がひとつもなく育ったと思っていたが、もしかしたら詩人に憧れていたのかもしれない。ちなみに生まれ変わったら公務員になりたい。

『少年の日の思い出』ヘルマン・ヘッセ (草思社文庫)

何歳になっても『少年の日の思い出』は子どもの頃の忘れた記憶を蘇らせようとする。そして私は大きな声をあげる。困ったものだ。でも嫌いではないのだ。

『夜市』恒川光太郎 (角川ホラー文庫)
童話のような、絵本のような、子どもの頃に経験した不思議な出来事のような、ひとりで留守番している時のような、夜ではなく夕方のような怖さ。

『新装版 標本の本 京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎ビジュアル文庫シリーズ)
ずっと静かな本。去年ジャケ買いした。
又吉直樹

『この道、一方通行』ヴァルター・ベンヤミン(みすず書房)
ドイツの思想家。短文の中に批評とユーモアがあり、栄養価が高くて甘みもある野菜を食べているような感覚になる文章。のどの奥に拳を突っ込まれて、さらに人差し指で粘膜押される感じです。「私の文章のなかの引用文は、道ばたに現れる盗賊のようなもの。武器を手に不意に飛び出しては、ぼんやり者から確信を奪いとるのだ。」(「裁縫用品」より)

『水中翼船炎上中』穂村弘(講談社)
もう私達はどこかで聞いたことのあるような話には聞き飽きてしまったから、なにかを想いだす時、日常を見つめる時には新しい視点が欲しくなる。そんな視点を与えてくれる穂村弘さんの17年振りの歌集。
・パンツとは白ブリーフのことだった水道水をごくごく飲んだ
・二十世紀の蠅がたかっているような石鹸を手にとれば泡立つ

『すべての、白いものたちの』ハン・ガン(河出書房新社)
ある街で想い出された自分の存在に関わる重要な記憶は"白いものたち"と関係を結び風景を立ち上がらせる。私は「白く笑う」という表現をこの本で知った。この繊細でこわれやすい言葉が物語全体に響く。いろんな紙を使って製本されているのも面白いですね。

『おまじない 』西加奈子(筑摩書房)
生活していると息がつまることが何度もある。その苦しみを理解して解体して、越えていけそうな気がしたり、無理だったりするのだが、そこから脱出する手掛かりを与えてくれる言葉と出会える瞬間が、まれにある。
『おまじない」におさめられた物語は、どれもその瞬間だった。視界がひらけるような、眠気から覚めるような。
女の子がみんな幸せであることを祈ります。

『その道の先に消える』中村文則(朝日新聞出版)
アパートの一室で緊縛師の死体が発見される。参考人として名前があがった女性は刑事である冨樫が惹かれる人だった。この物語を読むまで「緊縛」に興味を持ったことは無かったのに、昔から知ってたような気になった。そんな影響を読者に与える危険な小説を読み続けたい。個人的に、刑事・葉山の存在に惹かれました。

『銀河の果ての落とし穴』エトガル・ケレット(河出書房新社)
ケレットはイスラエル生まれで、両親は共にホロコーストの体験者らしい。ユーモアと悲哀の狭間というか、笑いが発生した瞬間の見落としがちな影というか。「なるほど」と笑みを浮かべてしまうけれども、次の瞬間、果てしない孤独について考えてしまうような刺激的な発想に満ちた短編集。
想像力で歴史に立ち向かおうとする人は最高です。

『息吹』テッド・チャン(早川書房)
一編読むごとに、「面白いなぁ」とつぶやいて、表紙をまじまじと見た。
テクノロジーの理解に関して苦手意識を持っている自分でも楽しめたのは、人間(的)な心理もリアルに描かれているから。
「商人と錬金術師の門」「息吹」「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」「偽りのない事実、偽りのない気持ち」……好きな作品を選びきれないほど。

『三体』劉慈欣(早川書房)
装丁に惹かれて読んでみたら、面白くてSFにハマりかけています。一つのストレスが人間の行動を決定し、思わぬ事態へと展開していく。いつだってそうだよなと思う。あらゆることは不確かで疑うことができる。終始、付きまとってくるような不安と、なんでもない部分を誰かに掻かれて、初めてそこが痒かったことに気付くような気持ち良さがあった。

『この道』古井由吉(講談社)
普通は見えたものや聞いたことを書こうとしたり、思考を追ったり、発想を膨らませたものを書こうとする。古井さんは見えないはずのものを見ようとして、聞こえないはずのものを聞こうとしている。肉体の感覚から出発していることは読めばわかるが、読者の自分は、道を少し行くと、浮かぶ飛び石のようなものを踏んでいて、いつのまにか特別なものに触れている。

『七つの殺人に関する簡潔な記録』マーロン・ジェイムズ(早川書房)
キングストン生まれの作家が書いた、ボブ・マーリーに関する本なら絶対に読みたい。本のサイズに圧倒されて持ち帰れるか不安になったが、買って良かった。ボブ・マーリー暗殺未遂を中心に、あらゆる語り手が自身の言葉でジャマイカやNYCの政治、暴力、薬、売春などについてリズミカルに語る。これだけ壮大で、残酷さも持ち合わせていながら、エピグラフに「どんぴしゃじゃなくともかなり近い」とジャマイカの諺が引用されている空気感も絶妙。

二人の共著『蕎麦湯が来ない』もお楽しみください。


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