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最高の人事制度もデザインできる――世界的経済学者が実践する「社会変革」

世界の超一流大学で活躍する研究者たちが最先端の知見を元に「日本と世界の未来」について語った書籍『天才たちの未来予測図』。著者のひとり、小島武仁さんは「マッチング理論の社会実装によって社会問題を解決していける」と言います。元スタンフォード大学教授で、現在は東京大学マーケットデザインセンター長を務める小島さんはどうやって研究成果を現実社会へと応用していこうとしているのでしょうか? 書籍の内容を一部特別公開します。

「人材配置ミスマッチ」を解消する

 私は、経済学では新興の分野の「マーケットデザイン」を研究しています。マーケットデザインとは、世の中の「資源」や「人」を最適な形で配分するために、社会制度をどう設計していけばいいかを考えていく、というものです。
 その中でも特に専門は「マッチング理論」です。これは、人と人、人とモノを最適に組み合わせる仕組みを研究する学問です。理論にとどまらず、現実社会に応用していくことで社会問題を解決に導けるというのが、この学問の大きな特徴です。
 私は「世の中で生じる問題の多くはマッチングがうまくいっていない」ことによるものだと思っています。マッチング理論には、社会をよりよい方向に変えていく力があるのです。
 私が実際に関わっている「社会実装プロジェクト」の1つが「企業の人事制度」に関する研究です。一言でいうと、人事向けのマッチングの仕組みを実装するというプロジェクトです。
 企業の人事担当者と話していると、よく話題に出るのが、「人材配置」の悩みです。新入社員が希望の部署に配属されなかったといって、すぐ辞めてしまうとか、逆にやる気がないのに辞めないとか、地方転勤の辞令を出した社員が転職してしまったとか、最適な人材配置ができずに、いろいろな問題が起きている。
 昔の日本企業は終身雇用制で、一度入社したら、定年までの雇用は保証されている一方、会社の命令は断れませんでした。
 研究開発をやりたくて入社したのに営業に配属された。ある日突然辞令が出て、「三日後に僻地の離島に単身赴任してください」と言われた。こういった希望とは違うことを強いられても、仕方がないから従う、という空気がありました。
 しかし、最近は社員に無理やり従わせることはできません。たとえば、転勤を命じても、共働きで、子どももまだ小さいので、単身赴任なんてできないといった問題が出てくるようになっているわけです。
 今進めているのは、そういった歪みを「マッチング理論」で解消していくプロジェクトです。まずは社員に「どの部署で働きたいか」をちゃんと聞いていく。さらに、部署のほうにももちろんニーズがあるので、「誰が欲しいか」もヒアリングする。その情報をもとにアルゴリズムによって、社員にとっても、部署にとっても、一番いい配属先を決めてあげる。そういう仕組みを開発しています。

「アルゴリズム」の力で満足度を高める

 アルゴリズムを使うメリットの1つは、煩雑な割り振り作業をすばやく終わらせられることです。社員全員の希望と部署ごとの欲しい人材をまとめると、それなりに大きなデータ量になります。これを人事の担当者が手作業で1人ずつ割り振ろうとすると、時間もかかりますし、人間なのでミスもする。
 一方、「どのように配属先を決めるか」というアルゴリズムをつくり、それをコンピューターで機械的に処理すれば、作業も一瞬で終わり、ミスもありません。
 配属先のマッチングでは、性格や能力に関する情報をあえて無視して、社員と部署の希望だけを利用しています。その情報のみを使ってアルゴリズムの結果を出すと、ものすごく透明性が高くなります。一方、さまざまなデータを使ってマッチングを行うと、「なぜその結果になったか」が非常にわかりづらくなる。すると、自分の希望と全然違う部署に行けと、ご神託のように言われて納得いかない、という人が出てきます。
 あえて使用するデータをシンプルにすることで、ブラックボックス感をなくし、納得度を高めているのです。実際、私たちが関わった企業人事についてアンケートを取ったところ、よかったという反応をかなりもらっている。少なくともアンケートベースだと、自分が行きたいと思っている部署は、高いモチベーションで働けるところなので、満足度が高くなるようです。
 また、部署のほうにも、「どの社員が欲しいか」という希望も出してもらっているので、そこで能力や仕事との相性なども間接的に考慮されています。たとえば、「俺は営業をやりたい」と強く思っている人がいても、営業部署の希望リストに入っていなければ、マッチしないようにしてある。
 社員本人の思いだけではなく、部署の意見も取り入れることで、双方向の視点をマッチングに反映させているのです。

続きはぜひ本書で!


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