アメリカで目の当たりにした「資本主義の限界」――気鋭の経済思想家はなぜ、マルキシストになったのか?
世界一の経済大国で目撃した「圧倒的格差」
私が最初に資本主義に疑問を持ったのは、アメリカのウェズリアン大学に留学した18歳のときです。
アメリカではすごくいい教育が行われているし、経済も発展している。楽しい文化もたくさんある。アメリカへの憧れで留学を決めました。留学前は国連などで途上国支援のために働きたいと思っていたのです。
しかし留学中、アメリカへの憧れが吹き飛ぶような経験をします。ハリケーンの被災地へ炊き出しのボランティアに行くことになり、そこで「格差社会」を目の当たりにしたのです。ハリケーンの被害を受けてから半年以上経っているにもかかわらず、貧しい人が住んでいるエリアは、ほぼ放置。保険に入るお金がない人は、一切保障してもらえないので、私みたいな普通の学生がボランティアでその人たちの家を建てていました。
アメリカのこの圧倒的な格差に、とてもショックを受けました。自分はアメリカの一面しか見ていなかったのだと。資本主義には光と影がある。その光しか見ていなかった自分が非常に浅はかだと反省し、その影に焦点を当てたいと思うようになりました。
そして、世界一の経済大国として大きく発展しているアメリカに日本よりも貧しい人が大勢いるということは、もっと抜本的に社会の仕組みそのものを変えなければいけないのではないかと考えるに至ったのです。
社会を変えれば、意識が変わる
きっかけとなったのが、マルクスとエンゲルスの『ドイツ・イデオロギー』の一節です。
「意識が生活を規定するのではなく、生活が意識を規定する」
この言葉に触れ、自分の考えが大きく変わりました。いくらみんなで「格差をなくそう」「環境を大切に」と啓蒙したところで、社会は変わらないということに気がついたのです。なぜ変わらないかといえば、今の社会は、搾取や環境破壊を前提として成り立っているから。コンビニやファストフードのような低賃金・長時間労働かつ環境負荷の高いものが、金儲けのために溢れている以上、啓蒙だけではどうにもならないのです。だから、根底にある社会システムを変えなければならない。それが、資本主義批判に向かった理由です。
ただ、当時はアメリカでも、「なんで今さらマルクスなの?」みたいなリアクションはすごくあったし、なかなか理解されませんでした。
しかし、その後、アメリカでも、バーニー・サンダースのような社会主義者を自称する政治家たちが若者たちの支持を広げています。資本主義の限界や矛盾が相当溜まっているのです。
そして今、格差だけでなく環境危機に関しても、資本主義の枠組みでは解決できないという声がどんどん大きくなっています。たとえば、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの資本主義批判は社会を大きく揺るがしました。この流れを、私は日本でも広めていきたいと思っています。
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