サメはどうやって人間をかぎつけるのか?【#頭のいい人のセンスが身につく世界の教養大全】
――まさか海水浴をしていて襲われる、なんてことは……。
小社刊『頭のいい人のセンスが身につく世界の教養大全』(ロイド&ミッチンソン/大浦千鶴子・訳)から、読みどころを厳選! 数回に分けてnoteで公開します。本書は、イギリスで10年以上にわたって、ロング&ベストセラーの一般教養の本。「生物」「科学・技術」「生活」「文化」「自然・地理」の5章立てで、世界中の新事実を紹介。「わたしたちの多くが常識だと思っていることは、だいたい間違っている」ことを暴きます。
ヒトの匂いをかぎつけるすごい嗅覚
人が大量出血していなくても、ヤツらはやってくる。
サメには驚くべき嗅覚があり、血の濃度が2,500万分の1の割合でもその臭いを感知する能力がある。9,000リットルの水で薄めた1滴の血にも反応するのだ。
水中では物質のにおいが分散する速度と方向は潮流で決まるので、サメは潮流にそって泳ぐ。そのため、人間がたとえ少量でも血を流していれば、サメはそれに気づくというわけだ。
たとえば潮流が時速3.5キロのゆるいスピードの場合、400メートル下流にいるサメはわずか7分で人間の血をかぎつける。サメの泳ぐスピードは時速40キロ近いので、60秒以内でたどり着ける計算になる。そして、潮流が速ければ速いほど、事態はさらに悪くなる。
たとえば、時速26キロの激流で人間が出血すると、そこから500メートル以内の下流域にいるサメは1分で血の臭いを感知し、そこまで2分足らずで到達する。人間が逃げる時間は3分しかないということだ。
サメには優れた視力もある。だが、ひどい鼻風邪をひいた(そんなことがあるのかどうかは、さておき)近視のサメでさえ、人間を見つけることができる。低周波での聴力も非常に発達しているからだ。たとえば500メートル離れた場所で何かが水を叩けば、その音を聴きとる。だから、できるだけ静かにしているのがいいかもしれない。
ところが、目も見えず、耳も聞こえず、鼻もないサメでさえ、難なく人間を見つけるという。
サメの頭部には小さな穴が点々と開いていて、その奥にはゼリー状の物質が詰まった筒状の器官がある。これは、イタリアの医師の名にちなんで「ロレンチーニ器官」と呼ばれている。
この器官がステファノ・ロレンチーニによって初めて発見されたのは1678年だったが、その役割がわかったのはごく最近だ。それは、あらゆる生物の体から発せられる微弱な電流を感知すること。
というわけで、あなたが海を漂っていても、血も流さず手足も動かさず、そして脳も心臓も機能を停止させていれば、サメは寄ってこない。
……ん? それは死体では? はい、そうです。出血していない死体にはサメは寄ってこないということです。
サメから逃れるサバイバル法
ところで、もしサメに見つかってしまったら、どうするか。
サメを逆立ちさせてお腹をくすぐってみるといい。「トニック・イモビリティー(持続性不動状態)」と呼ばれる反射状態に入り、まるで催眠術にかかったように動きを止めて水に浮かんでいるだけになるはず。
シャチは、この性質を利用してサメを仕留める。サメの体をひっくり返し、水中で窒息するまでそのまま不動状態にしておくのだ。サメが催眠から覚めて、あなたの策略に気がつくまで約15分はある。
ただし、注意が必要だ。全種類のサメが同じように反応するわけではない。たとえば、タイガーシャーク(イタチザメ)は目のまわりをそっとなでられると最高の反応を見せる。
どうやら「ただサメに近づきすぎないようにして、ゆったりと落ち着いてなでてやればいい」とのこと。
と、あれこれ言ったものの、心配することはない。サメが人間を襲うのは、確率的にはほとんどありえない。
合衆国の海岸に面する22州すべての過去50年以上にわたる統計調査で、人がサメに殺されるより稲妻によって死亡する確率のほうが76倍も高いことがわかっている。
どうやってひっくり返す……?