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たんぽぽの強さの秘密ー『大事なことは植物が教えてくれる』試し読み①

ベストセラー『生き物の死にざま』の農学博士が描く、静かにしなやかな植物の生きざま。アシのように風をかわし、ナズナのように冬を耐え、花咲くときはハルジオンのように上向いて。『大事なことは植物が教えてくれる』(稲垣栄洋・著)より試し読みです。

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タンポポが踏まれながら咲いています。踏まれながらも、笑顔のような、輝くような、花を咲かせています。
タンポポはいつも笑顔で私たちに咲きかけます。そんなタンポポに励まされ、勇気づけられる人も少なくないことでしょう。
俳人の種田山頭火は、タンポポの句をたくさん残しています。山頭火は五・七・五の俳句の定型にとらわれない自由律の俳句を詠みました。
たとえば、こんな句もあります。
「今日の道のたんぽぽ咲いた」
そんな山頭火の俳句の一つが「ふまれてたんぽぽ ひらいてたんぽぽ」です。

それにしても、タンポポはよく踏まれています。それもそのはず、じつはタンポポは、踏まれることにはとても強いのです。
まず、葉っぱは、地べたに近いところで広がっています。上から見るとバラの花のように見えるため、ドレスにつけるロゼットというバラの花の形をした飾りに見立てて、同じようにロゼットと呼びます。

ロゼットは、葉を広げて光合成をしながら、茎を伸ばさずに身を守るスタイルです。
茎を伸ばさないので、踏まれてもダメージがありません。

道端や公園の芝生など、よく踏まれるような場所では、タンポポの茎は横たわっています。踏まれて茎が倒れてしまったようにも見えますが、じつはそうではありません。
タンポポは葉が踏まれたり、草刈りで葉がちぎれたりすると、茎を上には伸ばしません。上へ伸びると危険だと判断するのです。短い茎を横向きに伸ばして花を咲かせるのです。
横に倒れたように見える茎は、タンポポが初めからそうしていたのです。

こうして踏まれることに耐えているタンポポ。しかし、タンポポは踏まれることに耐えているだけではありません。
タンポポは高く伸びるわけでも茎に葉をつけるわけでもありませんので、上へ上へと伸びる植物との競争には、けっして強くありません。光を奪い合うような競争では勝てませんが、かわりに、他の植物が生育できないような場所を選んで生えます。それが、よく踏まれる場所なのです。

よく踏まれる場所では、上へ上へと茎を伸ばすような植物は成長することができません。上へ伸びようとすれば、踏まれて茎が折れてしまうからです。
タンポポは小さな草花ですが、日当たりの良い場所で、存分に光を浴びて光合成をしています。踏まれる場所を選んでいるから、背が低くても光を浴びることができます。そして、背の低いことこそが、踏まれる場所に生えるために有利な特徴だったのです。

こうして、タンポポは踏まれる場所に好んで生えています。踏まれることに耐えているわけではなく、踏まれる場所を利用しているのです。 

「ふまれてたんぽぽ」と詠まれたタンポポ。しかし「踏まれても咲いている」という けなげな花ではありません。むしろ、「踏まれる場所を選んで咲く」したたかでたくましい花なのです。

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