社員が「会社」を辞める3つの理由
18年間増収を続ける、株式会社武蔵野代表・小山昇(こやま・のぼる)社長の新刊『できるリーダーは失敗が9割』から「リーダーの心得」を伝授します。
これからは、販売戦略ではなく人材戦略
私(小山昇)は、時代認識として、「中小企業を取り巻く経営環境は、2014年から大きく変わった」と考えています。
・2013年まで……販売戦略、営業戦略の時代
営業力がある会社や、販売戦略が巧みな会社が業績を伸ばした。他社に抜きんでた商品、他社より優れたサービスを持っていることが競争の大前提。社員が辞めても、新しい人をすぐに採用することができた。
・2014年以降……人材戦略の時代
働いてくれる人の数と実力(社員の総合力)が企業の優劣を決める。社員が辞めると、なかなか次の人材が採用できない。優れた商品やサービスがあっても、人の手によるオペレーションがなければ、利益を生み出せない。人が採れない時代に必要なのは、社員を定着させること。「今いるメンバー」の戦力化を図ることが大切。
2014年以降、中小企業をめぐる人材難は深刻です。なぜ、社員は会社を「辞めたい」と考えるのでしょうか。
求人情報メディア、エン・ジャパン株式会社が総合転職支援サービス『エン転職』上で、「退職のきっかけ」についてアンケートを実施しています(参照:エン・ジャパン株式会社 プレスリリース/回答数1万74名/調査期間:2019年7月29日 ~8月27日)
「これまでに退職を考えたことはありますか?」との質問に対し、96%が「ある」と回答。「退職を考えはじめたきっかけ」のトップ10は次のとおりです。
1 やりがい・達成感を感じない 41%
1 給与が低かった 41%
3 企業の将来性に疑問を感じた 36%
4 ⼈間関係が悪かった 35%
5 残業・休日出勤など拘束時間が⻑かった 26%
5 評価・⼈事制度に不満があった 26%
7 ⾃分の成⻑が⽌まった・成⻑感がない 24%
8 社風や風土が合わなかった 22%
9 業界・企業の将来性が不安だった 16%
10 やりたい仕事ではなかった 15%
会社を辞める理由は「仕事」「上司」「会社」が嫌いだから
「会社を辞める理由は、大きく3つに大別できる」と考えています。
【会社を辞める3つの理由】
①「仕事」が嫌で辞める
②「上司」が嫌で辞める
③「会社」が嫌で辞める
「①」(仕事が嫌で辞める)は、人事異動を行うなどして、仕事の内容を変えることで、離職を防ぐことができます。
「②」(上司が嫌で辞める)は、上司と部下の間に、コミュニケーション不全が起きています。コミュニケーション不全は、多くの場合、上司に責任があります。面談や懇談会を定例化するなど、社内の風通しを良くする仕組みが必要です。
「③」の「会社が嫌で辞める」のは、会社の仕組みが徹底されていないからです。「会社のルールを知らない(知らされていない)」と不満を募らせ、離職率が高くなります。
前述した「退職を考えた理由トップ10」に対して、わが社(武蔵野)は次のような対策を取っています。
◉やりがい・達成感を感じない/企業の将来性に疑問を感じた/業界・企業の将来性が不安だった
……経営計画書に「長期事業構想書」を明記。「5年で売上を倍にする」といった会社のビジョンを明らかにして社員に夢を与える。
「サンクスカード」(「○○さん、ありがとうございます」と小さな感謝を伝える仕組み)や表彰制度を設け、社員の承認欲求を満たす。
◉給与が低かった/評価・⼈事制度に不満があった
……人事評価制度を公開したり、給与体系勉強会を実施して「どうすれば給与が上がるのか」「どうすれば昇進するのか」を具体的に説明する。頑張ればそれだけ給与が上がる仕組みをつくる。
正しい評価が行われるように、管理職と部下が定期的に評価面談を行う。
◉⼈間関係が悪かった
……経営計画書に「コミュニケーションに関する方針」を明記して、社員同士の親睦を図る。「評価面談」「部門懇親会」「サシ飲み」「社長と食事会 」「夢の共有」といったコミュニケーションの場をつくる。
◉残業・休日出勤など拘束時間が⻑かった
……バックヤードのデジタル化を進め、積極的に残業改革に取り組む。全社員が連続休暇、有給休暇を取得できるようにする。
◉⾃分の成⻑が⽌まった・成⻑感がない/社風や風土が合わなかった
……社員が成長意欲を感じられるように教育に力を入れて、「それなりの人材」の底上げをする。価値観教育に力を入れて、社員全員が同じ価値観の下で仕事ができるようにする。
◉やりたい仕事ではなかった
……人事異動を繰り返す。社員の得意・不得意を見極めて、得意を伸ばす(長所を伸ばす人材配置を心がける)。
部下の定着率を上げた管理職を評価する
2014年までのわが社は、「5年以上勤めた社員が『辞める』と言ってきたら、引きとめない」がルールで、引き止めた管理職は始末書でした。
ところが現在は、真逆です。「5年以上勤めた社員が『辞める』と言ってきたら、全力で引き止める」がルールです。引き止めない管理職は始末書です。
管理職は挙げた業績によってその評価が定まります。しかしわが社では、業績はもとより、
・「部下の定着率を上げた管理職」
・「部下が『辞めたい』と言わないようにマネジメントできる管理職」
を高く評価しています。
「最近の若者は根性がないからすぐに辞めてしまう」といった論調を耳にします。しかし、本当に辞める側だけが悪いのでしょうか?
会社側に非はないのでしょうか?
私は、「むしろ、会社側にこそ非がある」と考えています。
武蔵野は、「社員が辞めるのは会社側に問題がある」と認識を持って、組織改革を行っています。その結果、離職率は大幅に減少しました。
2016年から2019年の3年間で新卒社員を71名採用し、辞めたのはわずか2名です(そのうち一人は、入社前から退職を考えていたので、実質1名)。
また、この10年間「10年以上勤続している社員」の中で退社したのは一人だけです。
定着率が向上(離職率が減少)した理由は、人間の心理をベースに、「仕事」が嫌にならない仕組み、「上司」が嫌にならない仕組み、「会社」が嫌にならない仕組みをつくり、運用しているからです。