竹の強さの秘密ー『大事なことは植物が教えてくれる』試し読み②
ベストセラー『生き物の死にざま』の農学博士が描く、静かにしなやかな植物の生きざま。アシのように風をかわし、ナズナのように冬を耐え、花咲くときはハルジオンのように上向いて。『大事なことは植物が教えてくれる』(稲垣栄洋・著)より試し読みです。
ホンダの創業者である本田宗一郎さんは、著書『俺の考え』の中に次のように記しました。
竹にはフシがある。
そのフシがあるからこそ、竹は雪にも負けない強さをもつのだ。 出典『俺の考え』本田宗一郎著 新潮文庫刊 1996年
竹には節があります。もし、節目がなかったら、どうでしょう。 竹は簡単に折れてしまうことでしょう。
竹はしなやかに曲がりますが、簡単には折れません。それは、 竹のところどころに節があるからなのです。
竹の節の役割は、単に構造を強くしているだけではありません。
竹は、それぞれの節目でも細胞分裂をすることによって成長を速くしていま
す。一般の植物の成長点は茎の先端に一カ所です。ところが、竹は成長点が節ごとにあるのです。「雨後の筍」のことわざどおり、筍は成長が速いことで知られていますが、それは、それぞれの節で細胞分裂をして一気に伸びるからなのです。
竹の成長には、他にも秘密があります。
竹は節を作ることによって、茎の内部を空洞にすることを可能にしています。この構造は、軽くて丈夫な茎を実現すると同時に、中身を詰まらせながら成長するのに比べると、成長をずっと簡略化させることができます。節という構造によって、竹は強さと速さを身につけたのです。まさにモータースポーツに挑んだ高い技術力で世界のホンダをつくり上げた本田宗一郎にふさわしい植物といえるかもしれません。
畑の雑草の中にも節を持つものが多くあります。畑のやっかいな雑草として知られるメヒシバやツユクサは、節を持つ雑草の代表です。これらの雑草は、茎を伸ばしては節を作り、節を作ってはまた茎を伸ばします。
節目を作るという作業は、植物の成長にとっては、一休みしているようにも見えます。もしかすると節目を作らない方が、より速く伸びることができるかもしれないのに、これらの雑草は節目を作りながら伸びていきます。
耕されたり、草刈りをされたりする畑で、これらの雑草はちぎれても、刈られても、 茎の節目から再び芽を出します。草刈りをして茎をバラバラにすると、雑草が増えて しまうことがあるほどです。
雑草にとって、節目は成長の軌跡であると同時に再出発の拠点となります。節のある成長は逆境に強いのです。ただやみくもに伸びただけの茎は、何かの拍子に茎の先端が折れてしまえば成長が止まってしまいます。
「竹にはフシがある......」
本田宗一郎は、この言葉に続けてこう言います。
同じように、企業にもフシがある。もうかっている時は、スムーズに伸びていくが、 もうからん時が一つのフシになる。このフシの時期が大切なのだ。出典『俺の考え』本田宗一郎著 新潮文庫刊 1996年
フシは成長していないように見えるときに作られるのです。
そういえば、「季節の節目」や「人生の節目」というように、私たち人間の世界で も「節目」という言葉がよく使われます。
人生の大きな転機や成功体験を節目として持っていれば、成長に行き詰まったとき、 そこに立ち返ることができる。悩んだり迷ったりして、立ち止まったとき、そこには 節ができる。そしてふたたび歩き出すことができる。節目にはそんな役目があるのか もしれません。
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