【試し読み】箕輪厚介『死ぬこと以外かすり傷』「はじめに」6000字を公開します
はじめに
こっちの世界に来て、革命を起こそう。
今、若者はチャンスだ。
これまでのルールとシステムが通用しなくなっている。
古い世代にはわけの分からない変化が今まさに起こり始めている。
ワクワクする未来が迫っている。この波に乗ろう。
自分たちの手で、世界の輪郭に触れ、自由で新しい秩序を作り直そう。
おっさんの言うことはすべて聞かなくていい。
その代わり、誰よりも動け。
語る前に手を動かせ。語りながらでもいいから手を動かせ。
能書きじゃなく数字やプロジェクトで示せ。
何をやりたいか、何をやっているか、明確に答えられる人間であれ。
狂え。生半可な人間が何も成し遂げられないのは、いつの時代も変わらない。
絶望を感じながら、それでも信じて走り抜け。
守るより、攻めろ。そのほうがきっと楽しい。
こっちの世界に来て、革命を起こそう。
編集者になって4年。ものすごい勢いで駆け抜けてきた。一瞬の爆発のような怒涛の日々だった。
双葉社、幻冬舎と二つの会社で編集者をやり、2017年は幻冬舎とNewsPicksがコラボしたビジネス書レーベル「NewsPicks Book」を立ち上げ、編集長になった。
毎月1冊出すという地獄のような日々を過ごし、創刊1年で、累計100万部という出版不況の今ではありえない数字を作ることができた。
SHOWROOM社長の前田裕二、メタップス社長の佐藤航陽などNewsPicks Bookの著者であるトップ起業家たちと本の出版以外の様々なビジネスを立ち上げたりしている。出版界を代表するヒットメーカーだとか最先端の編集者だとか紹介されることもある。
しかし、もともと僕は努力型でもエリート思考の持ち主でもない。
大学生時代は1秒も勉強していなかったと思う。
キャンパスで酒を飲みひたすら意味のない時間を過ごした。
昼間からあまりに飲んだくれて騒いでいたから、早稲田大学文学部キャンパスでお酒の販売が禁止になったのは僕のせいだという話もある。
双葉社に就職してからも雑誌の広告営業というユルい職場でダメサラリーマンの典型のような日々を過ごしていた。
暇だなあ、と思いながら、パソコンでヤフーニュースを眺め、適当に外の打ち合わせに出かけ、取引先と時間稼ぎのような無駄話をして、夕方には直帰して飲みに行く。
どこにでもいるダメサラリーマン。いや、どこにもいないレベルでクズだった。何かが変わったのは、編集者という仕事をやるようになってからだ。
与沢翼という男に引き寄せられ、広告部に所属しながら『ネオヒルズ・ジャパン』という雑誌の編集長になった。多くの修羅場やトラブルに襲われながらも、編集という仕事に熱狂し、アマゾン総合ランキングで1位を獲り、3万部を完売させた。
その後、正式に編集部に異動し、何かに取り憑かれたかのように仕事をしてきた。
僕はよく「ここ数年で一気にブレイクした」と言われるが、それは編集者にハマったからだ。
そして、編集者という仕事自体が、今の時代に求められる能力を培うためにベストな職種だったからだと思う。
編集者は最強だと感じる3つの理由がある。
1つ目は「才能カクテルが飲み放題」だから。
編集者は、一生に一度会えば人生が激変するレベルの変人や天才たちと毎日のように会って、時にぶつかりながら本を作り、戦友のようになる。
読者には申し訳ないが、一冊の本を通して一番成長するのは間違いなく編集者だ。読むより作るほうが、身体に著者のエッセンスが染み込むのだから当たり前かもしれない。
そうしてあらゆるジャンルで活躍している人たちの才能をカクテルして飲めるわけだから、こんな贅沢な仕事はない。
編集者自身が、本を作ることを通してずば抜けた成長ができる。僕は僕が作った本によって、できている。
相手の才能を吸収するつもりで仕事をする意識はどんな職業であっても大切だろう。
2つ目は、「ストーリーを作れる」ということ。
編集者の仕事を一言で言うと「ストーリーを作る」ということだ。
いまの時代、商品の機能や価格は大体似たり寄ったりだ。
これからは、その商品にどんなストーリーを乗っけるかが重要になる。
例えば、このTシャツは、どんなデザイナーが、どんな想いを持ってデザインしたのか、そこに込められたメッセージは何か。そういった消費者が心動かされるストーリーを作ることが、洋服でも家具でも食品でも必要になってくる。
実はそれは、編集者の一番得意なことなのだ。
これからはあらゆる業界で、ストーリーを作る編集者の能力がいきてくる。僕はお客さんが買いたいと思うようなストーリーを作ることで、アジア旅行で買った、タダでもいらないような大仏の置物を数万円で即売させることができる。
今、僕が本以外の様々なプロダクトのプロデュース業をやっているのも、この力を求められているからだと思う。
そして3つ目は「人の感情に対する嗅覚を磨ける」ということ。
「世の中の人が日々、何に涙し、何に悩み、何に歓喜しているのか」が肌感覚で分からなければ、売れる本なんて作れない。
最近はビッグデータを分析すれば売れる本のネタが分かる、みたいなことを言う人もいるが、そんなことで売れる本は生まれないと僕は思う。
マスにヒットするコンテンツというのは、突き詰めると特定の誰か一人に鮮烈に突き刺さるものだ。
30代の営業マン向けのビジネス書みたいに、ザックリとした小手先のマーケティングから作った本は売れない。
その営業マンはランチに何を食べるのか。唐揚げ定食なのか、コンビニ弁当なのか。特定の誰かを自分に憑ひょう依いさせるかのごとく、そこまで徹底的に想像し、その一人の人生が変わるようなものを作る。
そういった超個人的に作ったものが、結果的にマスに広がっていく。
人が日々何を感じているか、ということへの嗅覚は、ストーリーを作る力と同様、これからあらゆるサービス、プロダクトを作る上で重要になってくる。
編集者の根本は遊びのように仕事を、仕事のように遊びをやるということだ。
ただ熱狂し、狂う。自分の好きなものに情熱をもってひたすら入れ込む。
結局、本をヒットさせるのも、アプリをヒットさせるのも、ラーメン屋で行列を作るのも、自分自身の人生を乗っけて熱狂できるかどうかだ。
自分が読者として絶対に読みたいと思うものを作る。面白い、面白くないかの基準なんてないんだから、偏愛でいい。自分が「この原稿を世に出せたら編集者を辞めても良い」と思えるようなものを作る。まずはそこが大事。
その後に、その熱狂が独りよがりなものにならないように、人の感情を丁寧に想像し、自分以外の人にも伝わるようなストーリに乗せていくのだ。
AIが発達して事務的で機械的で頭脳的なだけの仕事がロボットに置き換えられる時代において、予定調和や利害損得を破壊して、己の偏愛のためにいかに狂えるかが、人間の最後の武器になる。だから、〝あまりにも人間的〟なこのスタイルは、これからの時代に強い。
また僕は、2017年6月に「箕輪編集室」というオンラインサロンを開設した。
わずか1年で1300名のメンバーが集まった。
ここはまさに時代の最先端で、若くて多様なメンバーがライティングやデザイン、動画制作、イベントプロデュース、コミュニティデザインなどをしている。
オンラインサロンとは主にインターネット上でやり取りするコミュニティだ。リアルな場所で会ったりもしながら、様々なプロジェクトを進めていく。
明治時代の私塾のようなイメージが近いかもしれない。同じ志を持った仲間たちが集い、語り合い、行動する。
オンラインサロンというのは会社とはまったく逆の発想で成り立っているから旧来の価値観でとらえようとすると難しい。
会社というのは給料を社員に支払う。
そうすると仕事に対するやる気がなくても、家族がいたりローンがあったりして、辞めないで会社にしがみつく。
毎月25日に振り込まれる給料をもらうために、我慢してでも会社にいるようになる。給料が変わらないのに仕事だけが増えると、損をしたような気持ちになる。
しかし、オンラインサロンはお金の流れが逆だ。メンバーはオーナーである僕にお金を払って働いている。箕輪編集室は毎月5940円。
お金を払って僕が作る本のプロモーションや書店に展開するパネルのデザインをしたりしている。最近では書店(箕輪書店)やゲストハウス(みの邸)を作ったりもしている。
お金を払って働くという行為は、通常の労働と逆の構造のため傍から見るとまるで理解できない。だからよく信者ビジネスだとか、宗教だとか、揶揄される。
しかし、これからはオンラインサロン的な働き方が主流になっていくと確信している。
彼らはオンラインサロンで、「お金」を得るために働いていない。
「楽しい」とか「面白い」とかいうやりがいのために動いている。
お金や物質を得ることよりも、高次な欲望を満たすために働いているのだ。若い世代はどれほど給料が高くてもやりたくない仕事はやりたくないが、楽しい仕事はお金を払ってでもやりたいという価値観を持っている。もはや、遊びと仕事の区別はない。
世は「働き方改革」。
多くの企業では、徹夜して働きたくても、強制的に休まされる。
「クオリティにこだわりたくても、自分の能力をあげたくても、休めと言われて働けないのがつらい」とテレビ局や広告代理店の人からよく聞く。
もちろん過労死などは問題だが、好きで仕事をすることすら制限されてしまう世の中はすこしおかしい。
がむしゃらに猛烈に夢中になって初めて触れられる世界の真実がある。
オンラインサロンはメンバーを雇用しているわけではないから「働き方改革」とは無縁だ。お金を払って好きで働いているから労働時間など関係ない。
夜も休みもなく、みんな目をキラキラさせながら動き続ける。もしオンラインサロンを辞めたくなったらお金を払わなくなって勝手に辞める。会社のように、辞めたくても給料をもらうためにしがみつく人はいない。だから残っているメンバーは常にモチベーションが高く、前向きだ。
テレビ局員が労働時間を守って映像のクオリティに妥協せざるを得なくなっていく中、箕輪編集室の動画チームが作る映像がテレビのクオリティを追い抜く日は近い。デザインチームが広告代理店よりかっこいいクリエイティブを作り、ライターチームが出版社より面白いコンテンツを作る未来もすぐそこだ。いや、もうすでにそうなってきている。
20代中心の彼らは恐ろしいスピードで進化している。
箕輪編集室はまだ立ち上げて1年だが、今ではNewsPicksから記事や動画の作成依頼が来たり、ZOZOからプロモーション依頼が来たりしている。
次々に日本のトップ企業とのプロジェクトが始まっている。上が詰まっている企業では若手にチャンスがなかなか来ない。大企業のサラリーマンが年功序列的な順番待ちをしている間に、箕輪編集室では高校生でも大学生でも、どんどん手を動かして成長していく。そして自分をブランド化して、個人として活躍する力を得ていく。ここはいま、日本で一番熱い私塾になっている。
僕はこのオンラインサロンの収益が月700万近くあり、他にプロデュースやコンサルを件以上やっている。副業の収益は会社の月給の20倍以上ある。
「会社を辞めないんですか?」と聞かれることも多いが、会社員であるということは実はとてもおいしい。会社員であることのメリットを生かさない手はない。
副業解禁が話題だが副業とは本来、会社でずば抜けた結果を出して、名前が立って、それによって個人として仕事を受け、大金を稼ぐことにならなければ意味がない。
休みの日に牛丼屋でバイトするなど本末転倒だ。貴重な人生の時間をお金と交換しているだけだ。副業解禁時代に活躍したければ、会社というフィールドを使って、外で稼ぐための個人ブランドを打ち立てないといけない。
都合のいいことに会社員はノーリスクでギャンブルができる。会社の金と人とインフラを使い、ビッグプロジェクトにフルスイングできる。たとえ失敗しても自分の財産は1円も奪われない。サラリーマンもまたエキサイティングで最強な仕事なのだ。
会社の中で実績を作り、会社の外で給料の何十倍も稼ぐというスタイルはまだ珍しいが、これからは続々と出て来ると思う。今のうちに、この新しい働き方をインストールしておくといいかもしれない。
本書には僕の頭の中、行動原理を全て書いた。
第1章は「考え方」。常に「こんなものだろう」という予定調和を壊しに行かなくてはおもしろいこと、新しいことはできない。ロジックから感動は生まれない。
第2章は「商売のやり方」。サラリーマン脳を捨て自分の手で稼ぐ力を持たないと、これからの時代にあまりに不安定だ。その方法を書いた。
第3章は「個人の立たせ方」。自分というブランドをいかに打ち立てるかが、個人の時代では重要なテーマになる。
第4章は「仕事のやり方」。ごちゃごちゃ言う前に、とにかく動く。スピードと量で圧倒する。変化の時代には、とにかく動く人間が勝つ。
第5章は「人間関係の作り方」。デジタルの時代こそ丸裸になって本物の関係を作れる人間の価値は増す。
第6章は「生き方」について。ロボットが人間の大半の仕事を代替するようになると、我々人間は自分の内的欲望に忠実に、何かに入れ込んで、ただ熱狂する時間ができる。むしろ、そうやってしか人間が生み出すべき価値は作れなくなる。いかにして熱狂にまみれて生きるかを考えた。
編集者として、サラリーマンとして、僕のスタイルは一般的ではない。異常だし、狂っているように見えるかもしれない。
しかし、今の時代に狂っているということは、狂っても間違ってもいないという何よりの証拠だ。新しい時代はいつだって狂っている人間が作っていて、その未来が現実になってから、初めて理解される。しかし、それでは遅い。
若い人はお金のために働くことはなくなり、過去をロジカルに分析しても、マス広告を打っても、世の中を動かせなくなった。すべてのルールが変わる中で強いのは、新しいことを受け入れ、変化を楽しめる人間だ。これからをどう生きるか、この本で一緒に考えていきたい。
日本も、僕のいる出版業界も、閉塞感が漂っていて、終わっていく感じがあるけれど、僕の周りは盛り上がっている。ポジティブな未来がはっきり見える。そして何よりも楽しい。
早くこっちにくるといい。こっち側で間違いない。
ルールは変わる。経験は邪魔だ。無知でいい。ごちゃごちゃ考える前に、動け。
この本がこれから生きる若い人の武器になったら、嬉しい。
箕輪厚介
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