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鎌田實さんが「コロナ禍の中で読みたい本」を教えてくれました。

医師で作家の鎌田實さんがこれまでに読んできた膨大な数の本と数々の映画を紹介した『鎌田實の人生図書館』が好評発売中です。今回は、このコロナ禍の中で読みたい本を紹介します。

著名な「幸福論」を比較検討してみると......

「コロナ疲れ」という言葉がありますが、負けてはいけません。精神的にも萎縮しがちですが、好きな小説や映画、音楽で魂を揺さぶってください。コロナと闘っていくうえで大事なのは、命と経済ばかりでなく、命と経済と心の3つの バランスです。その「心」を支えるためには、文学や絵本や映画や音楽がとても大切だと 思っています。

そこでウイズコロナの間に、幸福論のいくつかを読んで、小うるさいテレビの〝教育的指導〞はほっぽり出して、もっと大きな視点で、「幸福に生きるとは何か?」を考えるた めに、3つの幸福論を示しましょう。

この3つは、僕自身がときどき読み返しながら、自分の道しるべにしてきました。

僕は哲学者アランの『幸福論 』 が好きで、何度も繰り返し読んできました。アランがフランスの高校の哲学教師だったこともあって、読みやすいのが魅力の一つです。いろいろな幸福論の入門書にもなるでしょう。 

代表的な言葉があります。

幸福だから笑うわけではない。むしろ、笑うから幸福なのだ。

幸福についてなどというと難しく考えがちですが、このアランの言葉は、ふっと力みを取り除いてくれます。笑うことは、幼い子どもでも自然にできること。幸福になるのはと ても簡単なことだと思わせてくれます。

たくさんの哲学者が「幸福とは何か?」「よき人生とは何か?」を探求してきました。 苦しんでいても悲しんでいても、後悔するような人生を生きていても、そこから新しい思 想が生まれてくると考えられることが多かったように思います。

しかしアランは「〝幸せそう〞であることはかっこ悪いことではなく、幸福自身が徳である」と表現しています。オランダの哲学者スピノザも著書『 エ チカ』 の中で、「幸福は、 徳の報酬ではなく、それ自身である」と述べています。同じです。

アランは、「愛する人のために最善を成すことは、自分が幸福になることである」と、 幸福であることを胸を張って言っているのです。ここがアランの、アランらしいところです。

坂口安吾や太宰治が絶対に言わない言葉です。坂口や太宰のように、物事を斜めから見ていくのも大切ですが、ときどき、アランのような正道を自分の中に持っておくことも大 事だと思って、僕は生きてきました。

NHKテレビに「100分で名著」という人気の番組があり、僕はアランの『 幸 福論』 のときにコメンテイターとして参加しました。僕はその中で「幸福は徳である」というアランの表現を引用し、「幸福は目標ではなく意志」と述べました。 

「幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せになる」。だからこそ、笑うことは、意志の 力でできること。

同じように、幸福になることを目標にするのではなく、自分の意志こそが問われているのだと思って生きてきました。だから、どんな状況になっても、幸福になれるはず。こうやってアランを上手に利用しながら、生き延びてきました。

幸せかどうかは自分が決める

アルトゥール・ショーペンハウアーの『幸福について─人生論』も僕の愛読書です。 「『人は幸福になるために生きている』という考えは、人間生来の迷妄である」と断言しているところが痛快です。

皮肉屋のショーペンハウアーは、幸福に関係するものは、「健康」「朗らかさ」「余暇を楽しむ力」「孤独を愛す」だという。ナルホド、ナルホドと思いました。自分に満足でき る人が幸福になる。「自画自賛」もあながち間違いでないと言っています。これはいいな あと思いました。

ウイズコロナの時代に、うじうじと考え過ぎず、「自分の人生は結構イケてる」と考えるのが大事なのかもしれません。もっとおもしろく生きようよ、という精神が感じられます。

数学者で哲学者、人道的理想主義者であるバートランド・ラッセルの『ラッセル幸福論』 は、好奇心や外界との関係を築くことこそが、幸福獲得の条件だと問いています。

自分に熱意を向けることは、実は不幸な思考法なのです。自分探しをし過ぎたり、内省をはかるより、外に興味を持ち、自分が少しでもおもしろいと思うことをする、ときには少しだけでも、人の役に立つことをする。そのときに幸福感がやってくる。

他人の尺度に惑わされないことが大事

「幸福」とは何か? 何を人生の幸せとするかは、個人によって違います。また同じ人でも、年齢や体験によって変わっていくでしょう。でも自分で考えて到達したものなら、迷うことはありません。それに向かって突き進めばいいのです。 

しかし、「あの人に比べて自分は......」と他人を羨んだり、比較しても、決して幸福に はたどり着きません。その思考をしている限り、たとえそれにたどり着いたとしても、決して満足しないでしょう。「今度はこれ」という具合に、また別の人と比べて、今度はそれをゴールにするからです。

大切なのは自分です。自分が「これで満足」と思えれば、それが幸福の基準です。まして、コロナ禍の現在、世間体や同調圧力などの〝見えない力〞に屈してはいけません。自分が「いい」と思った幸福をまっとうしてこその人生。そのためには、古今東西の「幸福に関する名著」をひもといてみるのも役立つと思います。


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