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給料は下がるのに、物価は上がる……「最悪の未来」を回避するため、日本は今、何をするべきなのか?

マガジンハウス書籍部
2022年6月の国内企業物価指数が9.2%上昇するなど、物価高が止まらない日本経済。賃金が上がらないのにもかかわらず物価が上昇する「スタグフレーション」に突入した、とも言われています。こんな絶望的な状況の中、日本は今、何をするべきなのか? 経済評論家・加谷珪一先生の新刊、『縮小ニッポンの再興戦略』から抜粋して、「日本の進むべき道」を紹介します。

「貧しい国」に突入したニッポン社会

 近年、日本が先進国の地位から脱落するのではないかとの指摘を多く耳にするようになりました。日本経済は過去30年間、ほぼゼロ成長が続き、賃金もほとんど上昇していません。同じ期間で諸外国が経済規模を1・5倍から2倍に拡大させたのとは対照的といってよいでしょう。このところ進んでいる円安は日米の金融政策の違いを反映した結果ですが、日本の国力低下という側面があることも否定できません。
 私は以前から、日本の経済力が著しく低下しており、社会が急激に貧しくなっていると指摘してきましたが、当初は「日本を貶めている」「反日」といった誹謗中傷を受ける有様でした。
 事態を改善するには、現実から目を背けることなく、今、起こっている出来事を冷静かつ謙虚に受け止める必要があります。その意味では、日本の地位低下という大きな問題が社会の共通認識になったのはいい傾向だと思います。
 しかしながら、日本の厳しい現状について、私たちは100%受け止めたのかというとそうではないと思います。
 日本経済がほぼゼロ成長になっており、海外との格差が拡大していることは多くの人が認めるようになりましたが、そうなってしまった真の原因について、十分な議論が行われているとは言い難いからです。
 国内では日本経済の長期低迷について、何度も専門家による分析が行われ、処方箋もたくさん提示されましたが、どれもテクニカルなレベルに終始しており、本質的な議論とはほど遠いものでした。
 量的緩和策に代表される金融政策や財政出動、減税、賃上げといった各種経済政策や、企業に対する補助金などの産業政策は、景気を側面支援する効果をもたらす一方、本質的に経済を成長させる原動力にはなり得ません。持続的な成長を実現するには、日本経済が自らの力で成長モードにシフトする必要がありますが、日本はそのきっかけをつかむことができずにいます。

日本経済が停滞している「衝撃の理由」

 景気低迷の分析や処方箋が表面的なものばかりになってしまう最大の理由は、戦後の日本経済に対する、ある種の願望が関係していると考えています。
 その願望とは「戦後日本の経済成長は、日本人の不断の努力によって実現したものであり、必然の結果である」というものです。しかし、この無意識的な大前提が必ずしも成立しないのだとしたらどうでしょうか。もっと具体的に言えば、日本の成長は、複数の幸運が作用した結果であり、偶然の要素が大きかったとしたらどうでしょうか。
 日本の成長が必然だったという前提に立つと、今後も同じやり方で努力すれば、成長を実現できる可能性が高いという枠組みで議論が進んでしまいます。しかし、過去の成長が偶然だった場合、そのロジックは通用しません。世界経済の現状をゼロベースで検証し直し、どうすれば必然の成長を実現できるのか、本質的な議論が必要となるはずです。
 日本人が必死に努力したのは事実ですし、結果として高品質な製品を作ることができたのもその通りであり、私はこの事実を否定するつもりはまったくありません。
しかし、日本人だけが必死に努力したわけではなく、米国人も韓国人も中国人もドイツ人も皆、必死に努力しているのは同じです。自分たちだけが努力しており、他の国民よりも優秀であるという価値観は少々危険といえるでしょう。
 これは日本に限らず経済成長を実現したどの国にも当てはまることですが、経済成長できたのは、国民の努力によるものであると同時に、幸運に恵まれた面も大きいというのが現実です。戦後における世界経済の枠組みの変化が当時の日本社会とうまくマッチし、これが驚異的な成長をもたらしたのです。

日本経済復活のカギは「国内消費」にある

 私はかつて経営コンサルタントをしていた時期があり、経営学や企業経営の実態についてもそれなりに精通しているのですが、成功を続けている組織や実業家の考え方・振る舞いにはいくつかの共通項が存在します。そのひとつに「自身について幸運であると考える傾向が強い」というものがあります。
 自身(あるいは自社)の成功について、幸運が作用していると考える人や組織は、結果として得られた資産やネットワークを大事にし、それを有効活用すべく、さらに努力を重ねます。一方、今得られている成果がすべて自分の力量によるものと考える人や組織は、自身が持つ資産を貴重なものとは見なさず、ムダに捨ててしまう傾向が顕著なのです。
 世界最大の半導体メーカー米インテルのCEO(最高経営責任者)を長く務めた故アンディ・グローブ氏の口癖は、「パラノイア(偏執症)しか生き残れない」という苛烈なものでした。
 日本の半導体産業は今や壊滅的な状況ですが、一方でインテルは、韓国や台湾の追い上げにもかかわらず圧倒的な競争力を維持しています。すべての面において盤石の体制にしか見えない同社ですが、グローブ氏は「いつ敵に叩きつぶされるか分からない」と、まさにパラノイア的に生き残りに固執し、慢心したり、驕るという感覚は1ミリも持ち合わせていませんでした。こうした感覚を維持できたからこそ、同社は今でも圧倒的なナンバーワンであり続けているのです。
 個人や企業にそうした傾向が見られるのであれば、これらの集合体である国家全体についても同じことが言えると思います(ミクロとマクロは時に異なる振る舞いを見せることがありますが、基本的につながっています)。
 戦後日本の成長は幸運によってもたらされた面が大きく、すべてが日本人の努力によるものではありません。逆に言えばそうだからこそ、私たちはこの事実を謙虚に受け止め、幸運によって得られた富を失わないよう、大切に生かしていく必要があると思います。そして、日本が成長できなくなった真の原因を突き止め、事態を改善していく努力が求められます。
「日本の成長は必然である」という発想は、裏を返せば「いつでも挽回できる」という話につながりかねませんし、場合によっては現状を過度に肯定する力学を生み出します。私はこうした風潮が蔓延する今の日本社会を憂慮しています。
 私は「日本の高度成長は偶然によってもたらされたものであり、1990年代以降のゼロ成長についてはむしろ必然だった」と考えています。
 日本では1990年代以降、多くの経済政策が実施されましたが、ほぼすべてが失敗に終わりました。日本経済が成長できないのは、質的・構造的な問題であり、経済政策が原因ではないのです。
 日本経済復活のカギを握るのは、やはり国内消費ですが、超えなければならない課題も多いのが現実です。しかし、いくつかの問題をうまく解決できれば、日本経済は再び成長軌道に戻ることができるでしょう。
 日本は今後、人口減少が加速し、何もしなければ経済規模がさらに縮小していきます。しかしながら、日本には豊かな国内消費市場と巨額の資本蓄積という、戦後の高度成長で獲得した財産が残されています。この貴重な財産を次世代に残すための「知恵」こそが、私たちに求められているのです。


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