自分の居場所探しに悩む人へ。「自分は何者なのか」を考えるのではなく、やりたいことをやるべきよ。
Twitterフォロワー20万の大人気の精神科医Tomy先生の新刊『精神科医Tomyの自分をもっと好きになる「自己肯定感」の育て方』では、Tomy先生が自分のことを認められず悩んでいる人たちとのやりとりを通じて、肯定感をもつためのスキルを磨いてもらえるようになっています。今回は、本書の中から、石木孝美さん(32歳)独身の女性のお悩みをピックアップしました。
それ、本当に向上心?
今日の患者様は、石木孝美さん。 32歳の女性で、独身の方ね。大学卒業後、順調に大手企業に入社されてらっしゃる。今は営業で頭角を表して課長にまでなっているの ね。立派な経歴の方だし、仕事も順調なキャリアウーマンといった感じだわ。特にお 悩みはなさそうだけど、聞いてみないとわからないわね。じゃあ、お呼びしましょうか。
孝美 失礼します。
Tomy はーい、アテクシ担当医のTomyと言います。よろしくね〜。
孝美 あ、はい。よろしくお願いします。
Tomy 今日はどうしてここにいらっしゃったの?
孝美 あ、はい。なんだか、私このままでいいのか悩んでしまって。それで何か解決したいと思ってここに来たんです。
Tomy このままでいいかっていうと? 何か問題でも?
孝美 いえ、問題というか。大きな問題はないんですけど、このままでいいのかいつも不 安になっちゃって。実は私、資格マニアなんです。TOEIC、TOEFL、英検1級、フランス語検定3級、そろばん、宅建、インテリアコーディネーター、医療事務、簿記ととれそうなものは全部とっちゃっています。
Tomy えー、すごいじゃない。勉強にもなるし、実益にもなるし、素晴らしい趣味よ。 何が問題なの?
孝美 いえ、それが、趣味じゃないんです。
Tomy 趣味じゃない?
孝美 このままではいけない、自分のやるべきことを見つけなきゃと思って不安から資格 をとっちゃうんです。でも特にやりたかったわけでもなく、「何かやらなきゃ」と思って とるんですが、とったら「やっぱりこれじゃなかった」と後悔の念が襲ってきて、それでまた何かを探す。
きりがないんです。がんばっているのに、満たされない思いは変わらずで、いい年にも なってしまって。余計焦ってしまっています。
仕事も今は評価されていて順調だと思うのですが、結局替えのきく会社の歯車にすぎません。これでいいのかという思いはずっとあります。
Tomy なるほどね、なんだか話が見えてきたわ。今は資格のことばかりだけど、たとえばプライベートでは特に問題を感じていない? もし話してもよかったらだけど。
孝美 感じています。実は彼氏はいるんですが、すぐ「この人でいいんだろうか」と不安になってしまい、長続きしないんです。特に相手に大きな問題があったわけじゃないんですが、なんとなく満たされなくて。なので結婚という話に至ることもありません。今付き合っている人も3か月目なんですが、「本当に僕のことが好きなの?」と先日聞かれてしまい、はっきり「好きだよ」と言いきれなくってなんだか関係性が微妙になってきました。
年齢も年齢だし、家庭はもちたいと思っているんですが、私のこんな性格のせいで何をやってもうまくいかないような気がします。一体どうしたらいいんでしょうね。
Tomy なるほどねえ。ここは逆にうまくいっている人のことを考えたらどうかしら? ずばり、アナタの理想の生き方はどんな生き方なの?
孝美 えっと、自分がやりたいことがわかっていて、それに没頭できる生き方かな? プライベートも「この人が運命の人だ」と思える人をずっと大事にしたい。ちょっと痛い感じですかね......。
Tomy ううん、ちっとも痛くないわよ。むしろそう生きたいのは当たり前じゃない? じゃあね、ここでアナタの理想の生き方をしている人を呼んでインタビューしてみましょうか?
孝美 えっ、だ、誰ですか?
Tomy うふ、うちのスーパー看護師さん。すみえさんよ。すみえさーん、ちょっとお 願いします〜。
すみえ はい、先生。どうしました?
Tomy ちょっと今回の患者さんのために、アテクシのインタビューに答えてほしいのよ。
すみえ わかりました、私なんかでいいんですか? おほほほっ。
Tomy うちのすみえさんはね、アテクシが生まれたその日に、このクリニックにやっ てきたのよ。父の代のときにね。もう、頼まれたことは絶対にNOって言わないの。ハチの駆除、ゴキブリ退治、エアコンの修理、ありとあらゆることをやれてしまう。しかもすぐによ。
患者さんの情報も家族関係、今の問題点まで隅々まで頭に入っているから、カルテを書かなくていいくらいよ。そして、ずっと看護師としてがんばってくれているのよ。
孝美 へえええ、すごいですね。私なんかと全然違う。
Tomy 何か、すみえさんに聞いてみたいことはない?
孝美 ええと、看護師となってここで働き続けることを決めるまで、いろいろ「このまま でいいのか」と悩んであれこれしたりしなかったですか?
すみえ いいえー。そんなこと何にも考えてなかったわ。ただ、ここでご縁があってお世話になっているから、私にできるせめてものことをさせていただくしかなかっただけですわ。
孝美 ええっ、なんだか意外です。何にも考えていなかったなんて。
Tomy そうなのよ。ここに大きなヒントが隠されているの。はっきり言って、
自分を認めているときは、「自分は何者なのか」を考えていないのよ。
孝美 どういうことですか?
Tomy たとえばさ、今あなたはおなかがすいている?
孝美 すいています。
Tomy そうなのね。もうすぐお昼ですもんね。ところで今の質問に答えるとき、「自分はおなかがすいているのか」と考えてみた?
孝美 いいえ、考えていません。明らかでしたから。あっ!
Tomy そうなのよ。明らかなことはいちいち自分に問う必要がないのよね。
だからあなたの憧れているような「自分を認められる人」っていうのは、自分が何者なのかを考えていないのよ。
孝美 でも私考えちゃいますよ。がんばっても認められるようにならないってことなんですか? だって、認められている人は悩んでいないし、悩んでいる人はそのことばかり考えてしまっているし。
Tomy ノンノン。そんなことはありません。
形から入ればいいのよ。形から入れば、思考が変わるわ。
孝美 形から入る?
Tomy この場合は、行動を変えるのが一番手っ取り早いわ。アナタの場合だと、まず今やるべきことに集中しなさい。
孝美 それは何ですか?
Tomy アナタの仕事よ。評価されているアナタの仕事をひたすらやる。もっとベストなやり方はないのか考える。すみえさんは、「お世話になっているから、ここで自分にやれる一番のことをやります」って言ったじゃない? そのときに「この病院の歯車にすぎないんじゃないのかしら」とか、「今はよいけれど、将来的にこのままでいいのか」とか考えてなかったのよ。だから今がある。
孝美 でも、すみえさんは看護師さんで。
Tomy ノンノン。たまたますみえさんの志した職業が看護師だっただけで、本質は変わらないわ。自分は何者なのかを考えず、やるべきことだけをやった。アナタも今認められていることをやればいいのよ。
もし、きっとあなたが看護師の資格をとったとしても、行動を変えなければ「このままでいいのか」ってずっと問いかけ続けることになるわよ。そう思わない?
孝美 は、はい。現にそうですし。ひたすら仕事をすべきなんですか?
Tomy いいえ、そうじゃない。やりたいことをやるべき。
「自分は何者なのか」考えるのではなくやりたいことをやるべきよ。
孝美 それがわからないんです。
Tomy じゃあ、何もやらなくていいし、いろいろやってもいい。嫌になったらやめればいい。続けられそうなら続ければいい。
孝美 それじゃあ、今とやっていることとあまり変わらないんじゃないですか?
Tomy いいえ、それが違うのよ。何が違うかというと意識。
自分がやりたくてやるのか、認められたいと思ってやるのかで、同じことをやっても 180度違うわ。
今、アナタはやりたいことがわからないのに、「これなら自分が認められるんじゃないか」 と思っていろいろやっているわけじゃない? いわば、自分の居場所を探してるだけなのよ。
それはやりたいことをやっているわけじゃないのよね。
孝美 ああ、何だかわかるような気がします。でも難しいですね。
Tomy ふうん。じゃあ、ちょっと実践してみましょうか。今アナタがやってみていることは何?
孝美 今は中国語を習っています。
Tomy 何のために?
孝美 今までと同じで、何かにつながるんじゃないかと。できて損はないですし。もしかしたら、中国が自分の居場所になるんじゃないかと。
Tomy ん? 今なんておっしゃいました?
孝美 ハッ......。居場所探しだ。ダメなんですね。これ。やめなきゃ。
Tomy ノンノン。やめろとも言わないわ。大切なのは何をやるかではなくて、なぜやるのか。アナタは中国語を勉強していて楽しいですか?
孝美 えっ、わからないわ。
Tomy もっと簡単に聞いてみましょう。好きか嫌いかどっちかで答えてみて? アナ タは中国語を勉強するのが好きですか?
孝美 どっちかというと好きです。
Tomy そう、それなら続ければいいのよ。それがやりたくてやるということ。好きじゃなくなればやめればいい。アナタはその発想をしていないから何かが満たされない感じ がするのよ。
これから、何をするときも好きか嫌いかを自分に問いかけなさい。
そして、好きなことをやりなさい。好きじゃなければやめなさい。
人生は好きでもないことをやるには時間が足りなさすぎるのよ。
それでちょっと様子をみて?
孝美 はい、やってみます。
<Tomy先生の処方箋>
自分のやっていることが常に好きか嫌いか問いかけましょ。
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(この本に出てくる人たちはすべて完全なフィクションです)