トイレットペーパーの芯を覗くような視野を想像してみる。「彼女はどうやって描いているんだ?」――15枚の絵を48ページの絵本にするまで。
『最初に夜を手ばなした』メイキング#3
Twitterのメッセージ機能よりも、メールかLINEにしませんか? と椿さんから提案がある。椿さんは、スマートフォンを使いこなしている。メッセージアプリを始め、いろいろなアプリを自分で試している。
“トイレットペーパーの芯を覗くような視野”というので、たぶん日常的にPCよりもスマートフォンのほうが使用頻度は高いのだろう。LINEの返事はすぐに戻ってきた。
まずはネーム(文章)を完成させることにする。
15枚の絵を単純に見開き2ページで展開すると、30ページ+αになる。追加のエピソード9つを見開き展開すると、+18ページで48ページ。紙の本は8の倍数のページ数が効率がよいとされている。そこで、総ページは48ページを目安に台割(ページ展開)を作っていく。ちなみに電子書籍にはこのルールが必要ない。ページ数のしばりもないし、どれだけカラーが増えても原価計算にまったく影響しない。しかも……万が一、不測の事態が発生しても、発売後に変更することすらできる。電子書籍は「魔法の杖」だと思うことがある。
前半部分は、「夜」や「ボール」や「昼」を失くしていく症状の解説がある。この部分に医療監修をつけることにして、これはこのまま生かしていく。
ところが、後半のラフでは「絵」と「文」がどちらも説明的になってしまっていた。そこで、前半の「最初に夜を手ばなした」と同じトーンでネームを展開し、説明的な部分は「あとがき」に回そうということになる。
ラフがあがってきた。と同時に「あとがき」も並行して書いていった。
背景に黒ベタ(黒地)が多いのが気になったが、夏の終わりから後半のイラストを仕上げていくことになった。
この時点で、ブックデザインは、絵本を数多くてがけている名久井直子さんにやってもらえることになった。名久井さんは、川上未映子さん、大島真寿美さん、綿矢りささんら女性作家の装丁や荒井良二さん、ヨシタケシンスケさんらの絵本もデザインしている。
名久井さんに、椿さんが使っているソフトで印刷できるサイズのものが描けているかを確認してもらった。また「主人公が成長していく過程で洋服や髪型が違っているから、どこかで同じ人物だとわかるように」とのアドバイスもいただいた。
発売は2020年2〜3月。絵本の体裁をとっているけれど、女流エッセイのコーナーにおいてもらおうということになった。
10月6日、最初の原画があがってくる。
これらにネームを足して、あとがきを入れ、48ページにおさめていった。
試行錯誤したのは、Twitterに投稿された前半と描き足した後半のつなぎだった。
暗転して、希望を見出していくにはどう展開したらいいだろう。
1,2,3,4……目をつぶってカウントしてみる。暗転は4秒くらいか?
そして、カバー用に上がってきたのが、次の絵だった。
とても象徴的な、今までとは違うタッチの絵だった。
(つづく)
『最初に夜を手ばなした』メイキング#4はこちら。
文・松山加珠子
(「月刊カドカワ」副編集長、「角川つばさ文庫」編集長、「カドカワ・ミニッツブック」(電子書籍)」編集長を経てフリーに)
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