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『深夜、生命線をそっと足す』を病理医ヤンデル先生はどう読んだか

病理ヤンデル先生がTwitter Spacesにて『深夜、生命線をそっと足す』(燃え殻/二村ヒトシ)を紹介してくださいました。「大事な人にどんどん勧めていきたい本だな」と、Dr.ヤンデルが力説する理由とは? 
ヨンデル選書 in the Spaces『深夜、生命線をそっと足す』(2022年12月15日)の音声データをテキスト化して構成・編集したものをお届けします。

私ことDr.ヤンデルが読み終わったばかりの本の感想を10分くらいで話すTwitter Spacesでございます。

本日私が読み終わったのはこちら、作家の燃え殻さんとAV監督の二村ヒトシさんがずっと深夜にラジオ(AuDee配信)をやられていたんですね。「夜のまたたび」という番組。実は今から数時間前、今日の0時(12月14日0時)に最終回が更新されました。

夜のまたたび」、これがすごいいい番組なんですよ。僕、アーカイブで結構聴いてました(2023年1月いっぱいまで無料で配信中)。

その「夜のまたたび」が『深夜、生命線をそっと足す』というタイトルで本になりました。ラジオの書籍版。

ラジオが本になると、僕はハズレはないと思ってます。有名なラジオ番組が本になれば、そのラジオの空気がわかっている人は絶対に面白いと思って買える

一方で、ラジオを聴いたことのない人にとっては、突然本を読んでも空気がわからないことがまあまあある。なぜならラジオには、独特の囲いこみ感があるし、ラジオとリスナーの1対1の関係みたいなものが本にもじわっと持ち込まれる感覚があるからです。

ところが今回の『深夜、生命線をそっと足す』という本を読み終わって思うのは、この本は、このラジオを聴いたことのない人も全然読めるなという、その感覚が強い。なにを言ってるかというと、大事な人にどんどん勧めていきたい本だなと思いました。

互いに手を取り合ってない奴らのお喋り

「夜のまたたび」というラジオ番組は、疲れ切った作家と、バイタリティのあるAV監督が事前告知なしで夜中にお喋りをする。AV監督というのは少し特殊な職業ではありますが、二村さんは今までたくさん本を書いてきて、哲学対話という面白い仕事などもしている。

燃え殻さんと二村さんの共通点は、ゴールデン街のスナックでばったり顔を合わせるとか、渋谷の汚い居酒屋でばったり顔を合わせるとか、飲む地域が二人は似ているんだと思うんですけど。実際読んでいると、この二人は全然似ていないんですね互いに互いのことに共感することがない

僕、好きなラジオがいっぱいあって、最近の有名なところでいうと、女性二人のパーソナリティがやっているTBSラジオ「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」ってありますね。ジェーン・スーさんと堀井美香さんがやっている。あのラジオとか聴いてると、お互いがお互いに共感しあっているんですね。あと、お互い程よく他人だな。

あと僕がよく聴いているラジオでいうと、TBSラジオ「東京ポッド許可局」ですね、あれは三者三様で、お互いに共感なんてあんまりしてないんですけど、おじさんトークという意味で共通点が浮かび上がってくる。お互いに共感しすぎない感覚がある

僕そういうのが好きで、互いに手を取り合ってない奴らが喋っているラジオが好きです。そういう意味で、この、燃え殻さんと二村ヒトシさんはお互いに共感がなくていい

普段出てこないような話がゴロっと

燃え殻さんってこの番組で結構自分の悩みを語っているんですよ。お葉書を読んでリスナーの悩みに答えるとかそういう番組ではなくて、燃え殻さんがひたすら悩みを語るシーンがあるんですね

それに対して、二村さんは答えるでもなくてですね、燃え殻さんの話からインスピレーションを受けて哲学的なこととか、知恵の通ったこととかを喋るんですけど、それ以上にエッチな話をすごいする。めちゃくちゃします。でもラジオだからいいんですよね。テレビだったらエグいと思うんですけど、ラジオだと全然問題ないですね。問題ないけど、読むと結構ビックリしますよ。すごいエピソードだなとは思います。

そのエッチな話を受けて、燃え殻さんがまた、そのエッチな話と全然関係ないのだけれども、何か共振したのか、共鳴したのか、それもぴったり共鳴しているわけではなくて、なんとなく振動でプルルって心の奥底が震えて、そこから、普段出てこないような話がゴロッと出たような話を、燃え殻さんがする。

このバランスがすごくいいですね。

「燃え殻さんって、含羞の人ですね」

そしてここで、本に何が書いてあったかを必死に思い出しましたが、二村さんが燃え殻さんのことを「含羞の人ですね」って言うんですよ。

漢字浮かびました? 含羞。

「含羞の人ですね」って、僕、この本のコアだと思ってるんですよね。そうなんです、読みきって思ったことはそうなんです。燃え殻さんって含羞の人なんだって

僕が燃え殻さんが書いたものを読んでいると、それは作家と読者の関係になるので、燃え殻さんが含羞の人であるということまでは指摘できないんです。もちろん、燃え殻さんが作品の中にエネルギーとして練りこんでいることは間違いなくて、そこに含まれている極上の寂しさみたいな、その作品に込められているものに僕が感動することはあります。でも、燃え殻さんという作家自体の持っている含羞といったものまでは考えが及んでなかったんです。

けど、二村さんと話している燃え殻さんはまさに含羞の人。そのことに、ものすごく納得するんですね。こんなに作家・燃え殻さん本人のコアをえぐるでもなく、本人がその後生きにくくなるでもなく、本人の仕事を奪うでもなく、ただなんとなく、あ、本当にそういう人だなって。なんなら燃え殻さんを見る目がすこし優しくなる、みたいな。見事な言葉がこの本に入っているんです。たかだか漢字2文字ですけど。「含羞」。

共著だから薄まるわけじゃない。むしろ二倍!

この本はそういう本です。僕は二村さんの本は1、2冊しか読んだことがないのですが、これから読んでいこうと思います。こういう話をできる方の本が面白くないわけないと思います。そして燃え殻さんが書いてきた本はほぼ全部読んでいます。僕は燃え殻さんフォロワーです。

今回共著なので、なんなら燃え殻さんのファンにとっては、二村さんが入る分、燃え殻さんの密度が半分かなと思いきや、いやいやそうじゃないんですよ。二村さんが「燃え殻さんは含羞の人ですね」って言ってから、燃え殻さん自体を二倍感じることができる。そういう本でした。

ラジオというのは、ラジオのスピーカーと自分という、1対1のすごいクローズトな、密接なものだと思うんです。この本には、そのラジオ独特なものがあると思いました。ラジオを聴いたことのない人も、全然いけますよ。ラジオだなって思いました。この本いいですよ。ラジオが好きな皆さんいいですよ

あとおまけですけど、「夜のまたたび」の絵を描いてる久保田寛子さんが本の表紙も描いてます。

カバー表1

僕このイラスト、すげー好きです。背表紙にある絵、絶妙です。本棚に置いておきたい。

帯の背より

そして裏返した時、涙こそ出ないですけど、心の中が泣きます。今気づきましたけど、素晴らしいイラストですね。今年読んだ本のイラストの中で僕は一番好きかもしれないな。(完)

イラストレーション:久保田寛子 イラストコラージュ+デザイン:熊谷菜生

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