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鉄道アイドルが発売日に一気読みした本とは。

清水 潔 東京出身。ジャーナリスト。日本テレビ報道局記者/特別解説委員。新潮社「FOCUS」編集部記者を経て日本テレビ社会部へ。著書に『桶川ストーカー殺人事件―遺言』『殺人犯はそこにいるー隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』などがある。
伊藤 桃 青森出身。青山大学文学部英文学科卒業。タレント活動の傍ら趣味の鉄道旅を生かす。JR全線に完乗した記録『桃のふわり鉄道旅』を上梓。

清水 潔(以下、清水) 今日初めてお会いするのですが、実は以前、鉄道関係のイベントでお見かけしたことがありました。石破茂さんなんかも登壇されてて。

伊藤 桃(以下、伊藤) 去年(2019年)のJAM国際鉄道模型コンベンションですね。光栄です。

清水 人がたくさんいて、後ろのほうから首を長くしてステージを拝見しました。その伊藤桃さんが拙著『鉄路の果てに』をツイッターにあげてくださっていたので、おお!と思いまして、今回こうしてお声掛けさせていただいたというわけです。
戦争の話を書いたので、伊藤さんのような若い世代が手に取ってくれたことが嬉しくて。

伊藤 以前に清水さんの『桶川ストーカー殺人事件 遺言』を読んでいたので、本屋さんでは「あの清水さんの新刊だ」というのが最初の印象でした。タイトルに「鉄路」という言葉があって、そこに惹かれたところもあります。パラパラ立ち読みして語り口が軽快で読みやすそうだったので買いました。面白くてその日のうちに一気に読んでしまったんですよ。読み終わってから巻末の奥付を見たら、あ、今日が発売日だって。

清水 発売直後で反応が気になっていたなか、いち早く飛び込んできた。

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伊藤 昔から歴史ものや戦争ものが好きなんです。歴史好きだった父の影響だと思います。それでも知らないことが多いので、例えば、この本の中でも皇帝の話など出てきましたけど、そういうのはネットで検索しながら読みました。

清水 ああ、ロシア皇帝だね。19世紀にユーラシア大陸に鉄道を走らせようと工事を始めた。

伊藤 歴史には興味があるのですが、あまりに知らないことが多いので、学生時代は史学科の授業にもぐり込んだこともありました。歴史もの戦争ものの映画もよく見るのですが、かつて教授から言われて印象に残っているのが、
「あなたたちが知ってる戦争は大体は二次創作物。真実ではない可能性も高い」って。
たしかに、戦争のことを、どこか遠い昔の出来事、ファンタジーのように捉えているかもしれません。
鉄路の果て』は清水さんのお父さんの経験を辿ることで戦争の歴史をよりリアルに感じたし、旅行記として身近に読みました。清水さんがシベリア鉄道の車両と車両の間で凍えそうになって、お父さんも寒かっただろうなって思うシーンがありますが、そういうところが身に迫りました。

清水 そういう風に読んでもらえると嬉しいなぁ。

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伊藤 中国からロシアに入るところは大変そうでしたね。清水さんはちょうどカップうどんを食べようとしていたんですか?

清水 そうそう。突然列車の外に出ろって言われてね。カップうどんを手にしたまま駅のホームに降ろされて尋問室へ(笑)。あのときは腹も立ったけど、過去の歴史を照らし合わせると仕方ないとも思う。少し知っているだけで、自分の感じ方が変わる。

伊藤 あの国境の駅には四線軌条が残っているんですよね。かつて日本が大陸に進出したときの跡がそういうところに残されている。

清水 僕も大学で授業をやってるんだけど、若い人たちが、かつて日本が侵略したことを負い目に感じる必要はないと思ってて。ただ、少なくとも、自分たちの祖先がやったことを知っておいた方がいいよね。被害を受けた方は知っているし、忘れないからね。

伊藤 終戦についても、原爆が落とされて8月15日を迎えたと思っていたんです。でも、その前にソ連の思惑など色々事情があったことも知って。本当に知らないことばかりでした。

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清水 伊藤さんは『桃のふわり鉄道旅』や『小田急全駅ものがたり』という著作もあるし、国内の鉄道にはずいぶん乗ってるようだけど、シベリア鉄道は?

伊藤 乗ったことないです。海外を旅したことがないので、いつか乗りたいです。なにが起きるかわからない旅をしてみたい。言葉が通じるかな。それが気になりますね。

清水 シベリア鉄道は鉄道としてなかなかすごかったですよ。ずっと原野が広がっていて、長いジグザグのループ線を登っていくとか、ふと後ろを振り返ると、向こうから来た線路がオメガループしてるとか。

伊藤 土地が広大だからですね。

清水 そうそう。ものすごく遠くのほうまで見える。昔の国鉄時代の北海道で狩勝峠というすごい場所があって、旧線は廃止されてしまったけど。あの辺りの感じ。稚内には伊藤さんも行ったでしょう。南稚内の手前辺り。あれのもっとすごいのが永遠に続く。

伊藤 道東のほうに行くと、ロシアっぽい雰囲気がありますよね。東根室のほう。そういう感じかなって妄想しながら読みました。
一度北海道の花咲線で始発に乗ったことがあるんですけど、そのときは広い荒野に蝦夷鹿が走っているのを目撃して。列車と並行して、蝦夷鹿が湿地を駆け抜けている。東京に帰りたくないって思いました。

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鉄道好きになった理由

伊藤 青森出身なんですが、母方の祖父母が東京だったので、寝台特急「あけぼの」で行き来することが多かったんです。中学のときには一人旅をさせてもらってました。最初は青春18きっぷで。
清水さんが『鉄路の果てに』で、二十歳の頃に日本海周辺を旅したときのことを書いてましたけど、あそこはぐっときました。
「いろんな世界があることに気づいた」と書かれていて、私も同じような気持ちで十代の頃、鉄道に乗ってあちこち行ってました。「18きっぱー」として、気づいたら乗るのがメインになってました。

清水 JR全線に乗っているんだよね。『桃のふわり鉄道旅』は、何回かに分けて旅したの?

伊藤 8年くらいかけてます。それを思い出しながら書き下ろして。写真を撮るのも好きなので、写真と合わせて、あとからクラウドファンディングを利用して本にしました。

清水 旅してると伊藤さんだって気づく人もいるでしょう?

伊藤 ふだんものすごい雑な格好してるんですよ。荷物が少ないのが一番なので、スカートのときもありますけど、Tシャツは2枚くらいを交互に着るとか、そんな感じで。
古いものが好きで、それで国鉄JNRに弱いんです。ロマンを感じてしまう。肥薩線を旅したときは大隅横川駅には戦時中の弾痕が残っていたり。その街でかつてどんなことがあったのかなど、知らないことを知ることが好きです。
清水さんが鉄道好きになったのは、やっぱりお父さんの影響ですか?

清水 そうだね。親父に連れられて、僕も幼い頃からあちこち乗っていたから。気づいたときはそうなってましたね。

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清水 沖縄に軽便鉄道があったのは知ってる? つい先日、NNNドキュメントという番組で取り上げたんだけど、昭和19年に沖縄で220人以上が亡くなった大事故が起きている。それが日本最大の鉄道死亡事故なんだけど、実はほとんど知られていない。輸送列車の爆発を軍が隠してきた。今回、奇跡的に生き残った方から話を聞くことができて放送が叶った。

伊藤 番組を見てみたいです。昔ですけど、そこまで遠い昔ではないのに、そんな大事故を隠し通せたんですね。亡くなられた方のご家族もいるのに。

清水 今だから忘れられていることと、当時から隠されていたことの両方があるんだよね。戦争だから軍事機密は当然隠されるし。自分の子どもが徴兵されても、どこにいるのかは手紙に書けないからわからない。ご子息は何月何日南方戦線でお亡くなりになりましたという手紙が来て終わり。どこで死んだか、あとから調べようとしなければわからない。戦争とはそういうもので、そういう歴史がある。

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知りたいから読む、調べる、書く

清水 今回の本は、旅をしている時は、本の細かい構想はとくに考えてなかった。バイカル湖の凍った氷の上に機関車を走らせた話があったでしょう。あれも、現地の博物館で目にしたり、ガイドさんから話を聞いたくらいで、いまいち詳細はわからなかった。
日本に帰国してから図書館にこもって、古い新聞のマイクロフィルムをずっと調べていくと、どうやら本当に機関車が湖に沈んだらしいぞってわかってくる。日本の新聞にちゃんと出ているんだよね。
そうやって、僕も調べながら、本を書きました。

伊藤 私も『小田急全駅ものがたり』を書いたときは、「小田急」と付くタイトルの本は全部目を通しました。なぜここに線を引いたかとか、ひとつずつ調べるのが面白かったです。小田急も戦争で物資を運ぶことで潤ったという側面もあったようです。

清水 ちょっと汚い話だけど、戦時中は肥料を鉄道で運んでいた。当時は汲取式でしょう。処理するために専用の貨車をつくって運んで、帰りは野菜を積んで帰ってくる。西武と東武が有名だったな。小田急もやってるはず。
戦争と鉄道の関係は深い。

伊藤 今日お話をして、知らないことを知りたいという思いで本を手に取ったんだなと改めて気づきました。知ったような気になっちゃいけないなと思います。

清水 ありがとうございました。下記に「本には無いまえがき」などもあるので、読んでみてください。

・『鉄路の果てに』内容紹介についてはこちら
・写真で巡る韓国・中国・ロシアの旅はこちら
・冒頭8000字の試し読みはこちら
・「本には無いまえがき」はこちら
・矢部宏治さんと清水潔さんの対談はこちら
・書店員の皆様のコメントPart1はこちら
・書店員の皆様のコメントPart2はこちら
・清水潔が選ぶノンフィクション7選フェア開催店とパネル展開催店についてはこちらをご参照ください。

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